クズ（葛）：日本の原風景を彩る生命力と、暮らしに根付く多様な恵みのPodcast
下記のPodcastは、Geminiで作成しました。
ストーリーブック
はじめに
この記事では、日本の野山でごく普通に見られ、秋の七草の一つとしても知られる「クズ（葛）」に焦点を当てます。多くの人にとっては、ただの生命力が強い雑草という印象かもしれません。しかし、その蔓や根には、古くから日本人の暮らしを支えてきた食、薬、そして工芸品の原料としての豊かな恵みが秘められています。一方で、その旺盛な生命力は、海を渡った先で深刻な環境問題を引き起こす原因ともなりました。この記事を通じて、身近な植物であるクズの新たな一面を発見し、その奥深い世界に触れてみませんか？
クズの基本情報
クズは、その驚異的な生命力と多様な利用価値から、古来より日本文化と深く結びついてきた植物です。ここでは、クズを深く知るための基本情報をまとめました。
クズの基本データ
| 写真 |  |
| 学名 | Pueraria montana var. lobata 。Pueraria lobata と表記されることもあります 。 |
| 科名 | マメ科 Fabaceae |
| 属名 | クズ属 Pueraria |
| 英名 | Kudzu |
| 原産地 | 日本、中国、朝鮮半島 |
| 植物分類 | つる性多年草、落葉つる性広葉樹 |
| 開花期 | 7月～9月 |
| 花色 | 赤紫色、濃紺紫 |
| 別名 | 裏見草（ウラミグサ）、ウマノボタモチ、ウマノオコワ、くずかずら 。海外では「グリーンモンスター」「グリーンスネーク」「南部を飲み込んだつる」とも呼ばれます 。 |
| 花言葉 | 「活力」「芯の強さ」「治癒」「根気」「努力」「恋のため息」 |
| 誕生花の月日 | 9月11日、9月12日、9月13日、9月21日 |
クズの写真
2022年8月31日、旅行途中で立ち寄った猪苗代湖の遊覧船乗り場付近で見かけたクズの紫色の花を「Xiaomi Redmi Note 10 Pro」で撮影しました。
主な種類：文化に根ざす恵みと、猛威を振るう侵略者
クズという一つの植物は、置かれた環境によってその評価が大きく異なります。これは、植物の価値がその性質だけでなく、生態系や人間との関わり方によっていかに変わるかを示す好例です。
- 日本におけるクズ：文化に根ざす恵み 日本では、クズは古くから生活に欠かせない植物でした。万葉集で詠まれた「秋の七草」の一つとして季節の移ろいを彩る風物詩であり 、その根から採れるデンプンは高級食材「葛粉」として和菓子や料理に 、また風邪の初期症状に用いられる漢方薬「葛根湯」として重宝されてきました 。さらに、蔓の繊維はしなやかで丈夫な「葛布」という織物になり、武士の衣服などにも利用されました 。その旺盛な生命力は「活力」や「芯の強さ」といったポジティブな花言葉を生み出し、自然の恵みとして肯定的に捉えられてきました 。
- 海外におけるクズ：猛威を振るう侵略者 一方、クズがアメリカ合衆国に渡ると、その評価は一変します。19世紀後半に園芸植物や土壌流出を防ぐ目的で導入されましたが、天敵や競合する植物が存在しない環境で、その驚異的な繁殖力が暴走しました 。家や電柱、森全体を覆い尽くすその姿から「南部を飲み込んだつる（the vine that ate the South）」という悪名で呼ばれるようになり、生態系に深刻なダメージを与える「世界の侵略的外来種ワースト100」の一つに数えられています 。日本で恵みとされた強靭な生命力や繁殖力が、異なる環境では破壊的な力となってしまったのです。
クズの形態描写: その多様な美しさ
クズの各部分は、その旺盛な生命力を支えるための機能的な美しさを備えています。ここでは、花、葉、そして蔓と根の形態について詳しく見ていきましょう。
花の構造と色彩
クズは夏から初秋にかけて、赤紫色や濃紺紫色の美しい花を咲かせます 。花穂は下から順に咲き上がり、ブドウジュースのような甘い香りを放ちます 。花の構造には、マメ科特有の特徴が見られます。
- 蝶形花（ちょうけいか） 一つ一つの花は、蝶が羽を広げたような形をしています。これはマメ科の植物に共通する特徴で、フジやスイートピーの花を思い浮かべると分かりやすいでしょう 。
- 総状花序（そうじょうかじょ） 一本の長い花茎に、柄のある小さな花が連なって咲く付き方を指します 。下の方の花から順番に咲いていくため、長い期間にわたって花を楽しむことができます。
葉の多様性と質感
クズの葉は大きく、夏の日差しを効率よく受け止めるための構造をしています。
- 三出複葉（さんしゅつふくよう） 一枚の葉が、実際には3つの小さな葉（小葉）が集まってできています 。中央の小葉が少し大きいのが特徴で、これもマメ科の植物によく見られる形態です 。
- 裏見草（うらみぐさ） クズの美しい別名です。葉の裏側には細かい白い毛が密生しており、風が吹いて葉がひるがえると、緑の表面とは対照的に裏が白く輝いて見えます 。この風情ある様子が「裏を見せる草」として古くから和歌などにも詠まれてきました 。
蔓と根の驚異的な生命力
クズの形態で最も特徴的なのが、その蔓と根です。これらは、クズが他の植物を圧倒し、厳しい環境でも生き抜くための力の源泉となっています。
- 蔓（つる） クズの蔓は一日に30cm以上、一シーズンで10mから20mも伸びることがあります 。木やフェンス、建物などあらゆるものに絡みつき、光を求めて上へ上へと伸びていきます。この登攀能力と成長スピードが、他の植物を覆い尽くしてしまう原因となります。
- 塊根（かいこん） 地面の下には、サツマイモのように肥大した巨大な根が隠れています。この塊根は長さ1.5m、重さ180kg以上に達することもあり 、大量のデンプンを蓄えています。これが食用や薬用となる葛粉の原料です。この巨大な「栄養タンク」があるため、地上部を刈り取られても、根さえ残っていれば何度でも再生することができるのです 。
クズの生態・生育サイクル
クズの美しさや有用性を理解する一方で、その生態、特に驚異的な繁殖力を知ることは非常に重要です。ガーデニングなどで利用する際には、その力をコントロールするための知識が不可欠となります。
適切な環境と育て方
クズは非常に強健で、特定の環境を選びません。その育てやすさが、逆に管理の難しさにつながります。
- 日照: 日当たりの良い場所を最も好みますが、半日陰でも十分に生育します 。
- 水やり: 地植えの場合、自然の降雨だけで十分です。深い根が地中の水分を吸収するため、乾燥にも強いです 。鉢植えの場合は、土の表面が乾いたら水を与えます。
- 土: 土質をほとんど選びません。痩せた土地や荒れ地でも問題なく育ちます 。
- 肥料: 原則として不要です。マメ科植物であるクズは、根に共生する根粒菌（こんりゅうきん）の働きによって、空気中の窒素を自ら栄養分として取り込むことができるためです 。
季節ごとの管理
クズの管理は「育てる」というより「抑制する」という側面が強くなります。
- 春: 3月から4月にかけて新芽が勢いよく伸び始めます 。もしグリーンカーテンなどで利用する場合はこの時期に植え付けますが、同時に管理のスタート地点でもあります。
- 夏: 成長の最盛期です。地植えの場合、1日で30cmも蔓が伸びることがあるため、数日おき、場合によっては毎日の剪定が必要になります 。これは枝分かれを促すためではなく、想定外の場所に蔓が伸びて手に負えなくなるのを防ぐための「封じ込め」作業です 。
- 秋・冬: 成長が鈍化し、冬には地上部が枯れます。蔓が枯れた冬の終わりから早春にかけて、思い切って刈り込むことで、翌年の繁茂をある程度コントロールできます 。
繁殖方法
クズは主に栄養生殖によって簡単に増えます。
- 挿し木: 蔓を10cmから15cmほどに切り、節（ふし）が土に埋まるように挿しておくと、容易に発根します 。
- つる伏せ: 地面を這った蔓の節から根が出て、そこから新しい株が独立して増えていきます。この性質により、一つの株から広大な群落を形成することができます。
駆除が必要な場合
一度庭に定着したクズを完全に取り除くのは非常に困難です。その生命力の源である巨大な根を絶たない限り、再生を繰り返します。
- 物理的駆除: 最も確実な方法は、根の株元（発芽瘤）を根気強く掘り起こして完全に取り除くことです。これは大変な重労働を伴います 。
- 化学的駆除: 単に除草剤を葉に散布するだけでは効果が薄いです。蔓を切り、その切り口に直接除草剤を塗布したり、根に穴を開けて注入したりする方法が有効ですが、一度では枯れないことも多く、繰り返し処理が必要です 。
クズの花言葉・文化・歴史
クズはその強靭な生命力と美しい姿から、日本の文化や文学の中で多様な象徴として描かれてきました。
花言葉とその意味
クズの花言葉は、その生態や利用法に由来しています。
- 「活力」「芯の強さ」「根気」「努力」: 荒れ地でもたくましく蔓を伸ばし、刈り取られても再生する驚異的な生命力に由来します 。
- 「治癒」: 根が漢方薬「葛根湯」の原料として、古くから人々の体を癒してきたことにちなみます 。
- 「恋のため息」: これは日本の古典文学、特に万葉集に由来する花言葉です。クズの蔓が他の木にしっかりと絡みつく様子を恋人たちの結びつきに、また、風に葉が裏返る「裏見草」の姿を、心変わりや報われない恋の恨み（うらみ）になぞらえた和歌が詠まれました 。
誕生花としてのクズ
クズは秋を代表する花として、9月の誕生花に指定されています。具体的には、9月11日、12日、13日、21日などがクズの誕生花とされています 。
文化・歴史的背景
クズは日本の文化史において重要な役割を果たしてきました。
- 秋の七草: 奈良時代の歌人、山上憶良（やまのうえのおくら）が万葉集で詠んだ秋を代表する七つの草花の一つです。ハギ、ススキに次いで「葛花（くずはな）」として登場し、古くから観賞の対象であったことがわかります 。
- 名前の由来: 和名の「クズ」は、大和国（現在の奈良県）の吉野川上流にある国栖（くず）という地域が、良質な葛粉の産地であったことに由来するという説が有力です 。
- 文学と意匠: 万葉集をはじめとする多くの和歌に詠まれただけでなく、その特徴的な葉の形は家紋のデザインにも取り入れられるなど、日本の美意識の中に深く根付いています 。このように、実用的な価値だけでなく、美的・象徴的な価値も高く評価されてきたのが日本におけるクズの姿です。
クズの利用法
クズは「捨てるところがない」と言われるほど、古来よりその全ての部分が巧みに利用されてきました。ここでは、代表的な三つの利用法である「食」「薬」「繊維」について、その伝統的な製法とともに詳しく解説します。
食用としての利用：葛粉（くずこ）
クズの利用法として最も有名なのが、根から採れるデンプン「葛粉」です。純粋な葛粉（本葛）は生産に大変な手間がかかるため、非常に高価で貴重な食材とされています。
- 葛粉とは 葛粉は、葛餅（くずもち）や葛切り（くずきり）といった涼やかな和菓子の材料として知られています 。また、料理のとろみ付けにも使われ、片栗粉などと比べて透明感があり、なめらかな口当たりに仕上がるのが特徴です 。
- 伝統的な製法 良質な葛粉の製造は、冬の厳しい寒さを利用した、時間と労力を要する作業です。
- 掘り採り: 秋から冬にかけ、デンプンを最も多く蓄えたクズの巨大な根を、専門の職人が山に入って手作業で掘り出します 。
- 粉砕: 掘り出したばかりの新鮮な根をきれいに洗い、デンプン質を抽出しやすくするために細かく砕きます 。
- 揉み出しと濾過: 砕いた根を布袋に入れ、水の中で何度も揉み洗いします。すると、デンプンが水に溶け出し、牛乳のような白い液体になります。この液体を濾して、繊維などの不純物を取り除きます 。
- 精製（吉野晒し）: この工程が葛粉の品質を決定づけます。デンプンが溶け出した液体を桶に入れ、一晩静かに置いておくと、底にデンプンが沈殿します。上澄みの水にはアクや雑味が多いため、これを捨てます。そして、再び新しいきれいな水を注いでよくかき混ぜ、また沈殿させる、という作業を何日も、時には数週間にわたって繰り返します。この「水晒し」の工程を経ることで、不純物が完全に取り除かれ、真っ白で純度の高い葛粉が生まれます 。
- 乾燥: 精製されたデンプンの塊をブロック状に切り出し、1～2週間かけてじっくりと乾燥させると、固く結晶化した本葛が完成します 。
薬用としての利用：葛根湯（かっこんとう）
クズの根は「葛根（かっこん）」という生薬としても知られ、日本で最も有名な漢方薬の一つである「葛根湯」の主成分です。
- 葛根湯とは 葛根湯は、中国の古い医学書『傷寒論』を原典とする漢方薬で、特に「風邪のひきはじめ」に用いられます 。
- 構成生薬とその役割 葛根湯は7種類の生薬から構成されています 。
- 葛根（カッコン）: 主薬。首筋や肩の筋肉のこわばりを和らげる働きがあります 。
- 麻黄（マオウ）・桂皮（ケイヒ）: 体を温め、発汗を促すことで、体表にある邪気（病気の原因）を追い出します 。
- 芍薬（シャクヤク）: 筋肉のけいれんを鎮め、痛みを和らげます 。
- 生姜（ショウキョウ）・大棗（タイソウ）・甘草（カンゾウ）: 胃腸を保護し、他の生薬の作用を調和させます 。
- 使用のポイント 葛根湯が最も効果を発揮するのは、「ゾクゾクと寒気がするが、まだ汗はかいていない」という風邪の初期段階です 。汗をかき始めた後では効果が薄いとされています。体を温めて汗とともに病邪を追い出すという考え方に基づいているため、お湯に溶かして温かいうちに服用するのが効果的です 。
繊維としての利用：葛布（くずふ）
クズの蔓の皮から採れる強靭な繊維は、「葛布」という美しい布に生まれ変わります。
- 古代からの織物 葛布は、沖縄の芭蕉布、山形の科布と並び「日本三大古布」の一つに数えられる、非常に歴史の古い織物です 。日本最古とされる葛布は古墳時代の遺跡から発見されており、綿が普及する以前の日本では貴重な衣料でした 。
- 歴史的な用途 軽くて通気性が良く、独特の光沢と張りがあるため、鎌倉時代から江戸時代にかけては、武士の裃（かみしも）や袴（はかま）などに珍重されました 。
- 製法と現代での利用 葛布作りもまた、根気のいる手作業の連続です。
- 夏の蔓を刈り取って蒸し、水に浸けて発酵させることで、外皮を柔らかくします 。
- 水洗いしながら、中から光沢のある強靭な繊維（葛苧 くずお）だけを取り出します 。
- この繊維を糸にし、手機（てばた）で織り上げます。葛の糸は伸縮性がないため、主に横糸（緯糸）として使われ、縦糸（経糸）には木綿や麻が用いられます 。
まとめ: 尽きない魅力
この記事では、クズの基本情報から、その美しい形態、驚異的な生態、そして食・薬・繊維としての多様な利用法までを詳しくご紹介しました。ありふれた雑草と見過ごされがちなクズが、日本の文化や暮らしの中でいかに重要で、かつ多面的な存在であったかをお分かりいただけたのではないでしょうか。
その強靭な生命力は、日本では「活力」の象徴や持続可能な資源として、海外では「侵略者」として、全く異なる評価を生み出しました。このことは、私たちに植物と人間、そして環境との関係性を深く考えさせてくれます。
ぜひ、あなたも道端のクズに新たな視線を向け、その尽きない魅力に触れてみてください。身近な自然の中に隠された奥深い物語を知ることで、毎日がもっと楽しく、心豊かなものになるはずです。
参考資料
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- クズ：葛(Kudzu)の花言葉・誕生花・特徴, http://chills-lab.com/flower/ku-sa-05/
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- クズ（葛）の花言葉（活力など）や花、秋の七草、葛粉、葛根湯について, https://hanatama.jp/pueraria-montana-var-lobata.html
- 9月13日の誕生花、クズ（葛）とヤナギ（柳） | かぎけん花図鑑, https://www.flower-db.com/ja/articles/september-kuzu
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- ９月２１日の誕生花 クズ（葛）の花言葉「恋の溜息」、根がたくわえた澱粉で行う「治療」 | 弥生おばさんのガーデニングノート「花と緑の365日」 – 楽天ブログ, https://plaza.rakuten.co.jp/lilyandrose/diary/201409210000/
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- 葛粉の作り方とは？原料の葛の根を粉砕して晒す伝統製法を解説！, https://shop.sweetsvillage.com/blogs/knowledge/how-to-make-kudzu-starch
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- 本葛（くず粉）ができるまで｜廣八堂, http://www.kyusuke.co.jp/wordpress/247141771-html/
- 葛の根っこから葛粉を作る（後編：葛餅にする）, https://blog.hyouhon.com/entry/2019/12/23/153728
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- 「クラシエ」漢方葛根湯エキス顆粒SⅡ | 商品情報 | クラシエ, https://www.kracie.co.jp/products/ph/1201502_2220.html
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